島谷ひとみの「シャンティ」という曲もあるくらい、シャンティは一般的にも馴染み深い言葉になっています。ヨガでは、レッスンの終わりに「オーム・シャンティ・シャンティ・シャンティ」とマントラを3回唱えたり、古代インドの哲学書である「ウパニシャッド」でも最後を飾ってくれる言葉でもあります。
シャンティとは、サンスクリットで「平安・平和・静寂」といった意味を持っています。シャンティを唱えると、音の響きが心や体に影響を及ぼし、唱える人や周りの人や環境にも落ち着きをもたらしてくれると考えられているようです。
シャンティを3回唱えることには意味があります。
1回目のシャンティは、自分自身に向けて。
2回目のシャンティは、周りの人たちや今いる空間に向けて。
3回目のシャンティは、世界や地球、大自然、宇宙に向けて。
自分の心と体を調和させることから始まり、身の回りの人たちと一体化するように受け入れること、そして地球や宇宙のようにスピリチュアルな世界まで調和できるよう、どんどんイメージを拡げる意識を持ちます。
シャンティの語源
シャンティには以上のような印象を持っていました。ですが、伊藤武さんというインド作家が書かれた『ちょこっとサンスクリット語』を読んで、だいぶ印象が変わりましたのでご紹介します。
語根はśam(静まる/鎮まる)。
〜〜中略〜〜
śaは邪悪なこと。ヨーガのアーサナにシャラバ(イナゴ)がありますが、śalabhaとは「大地(la)の豊穣(bha)を滅ぼす(śa)もの」。また武器のことをシャストラ(śastra)といいますが、これは「殺戮(śa)の道具(stra)」の意味です。
mは「死」(mṛ)。
つまり、śamの原義は「邪悪なことが死ぬ(終わる)」。よって「静まる/鎮まる」のです。そしてシャーンティは、この言葉のタネを発芽成長させたもの。〜〜中略〜〜
このśāntaの女性形が、シャーンティ(śānti)。この語を擬人化すれば、強く、美しく、シャンとした女性の雰囲気です。
しかし、彼女は、はじめからそうだったわけではありません。過去には、邪悪なこと、辛いこと、苦しみ、トラブルに見舞われたこともあったはず。それを乗り越えてはじめて、彼女は“シャーンティ”となるのです。
平和とは、強さの上に成り立つもの
例えば失敗をした時に、気持ちが落ち込んでしまうことがあります。人と接するにあたり、気持ちを強く持たないといけない時もあるでしょう。よくない状況の中で自我をしっかりと保つためには、心の強さが求められます。
心が弱いと、選択肢がいくつかあった時に楽な方へと流されやすくなります。一回の選択では大きな影響が出ることはないでしょう。でも、それが何回も続くと、苦しい状況に陥ることは想像に難くありません。強さのない意思は人に流され、人に流される人生は、自分が生きやすい環境を築くことは難しいと言えます。
平和とはただ穏やかで、心地よいといったひと時のものではないのかもしれません。心の中に平和を保つことができる人は、強さを同時に秘めているのではないでしょうか。自分の中にある恐怖や不安とも向き合うことができるから、周りの人とも調和を作っていくことができるのです。
だからこそ強くなれた人間には、凛としたかっこよさが漂います。自分と向き合い、不安と恐怖を乗り越えられるような人間になりたいものですね。